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--なかなか身近なこととして想像しにくいんですが…、やっぱり苦しいのはいやだからAかな。苦しんで死ぬよりは、できるだけ心穏やかに自分なりに納得して最期を迎えたいと思います。

松村:まあ、いろいろな考え方があると思います。それは、それぞれの個人の考え方しだいであると思っています。現在、医療や介護の現場では、「どうすればクオリティ・オブ・ライフを高く保ったまま人生を過ごせるか」という課題に力が注がれています。病気とどう向き合っていくか、よりよい健康状態を実感できるか…ということです。私が訪問診療という形で定期的に診ている患者さんは、病気は治ってはいないけれども、最もリラックスできる住み慣れた家でご家族の介護を受けながら、精神的に満たされて穏やかに人生を送っておられるお年寄りがたくさんいらっしゃいます。
 なかなかこのような考え方は、まだまだ医療関係者にも新しいものです。私はこのような考え方を、医療関係の方たちに浸透させていく役割も担っていまして、これから医療の現場に出ていく医学生たちや研修医たちに講義をしたり、一般の方々、患者さんご自身やそのご家族にも知っていただく機会をできるだけ持つようにしています。

--クオリティ・オブ・ライフというのは、患者さんサイドに立った新しい医療の捉え方だというお話でしたが、生活の質という部分は人それぞれで違ってくる気がしますね。

松村:その通りです。死ぬまで人の世話にならず自分で行動したいと思っている人、盆栽が大好きで、寝たきりでも庭の緑を見て過ごせたら幸せという人、多少足が不自由でも毎日の散歩が一番の楽しみという人…というように、価値観や何を大事にしているかが異なりますから、同じ状況であっても満足度や幸福感というものは当然人によって違ってきます。健康というものは確かに大事ですが、人生はそれだけではないですよね。
 かつて私は日本とアメリカの双方の日本人・日系人のご高齢の方たちにアンケートをとったことがありまして…。身体がもう自由にならなくなってきて、激しい痛みを感じる、人工呼吸やチューブを必要とする、昏睡状態、ぼけた状態、介護施設のお世話にならなければならない、というような状況になった時、「生き続けなければならないとしたら、むしろ死んでしまいたい」と思うかどうか尋ねてみました。その割合を比較したのがこちらのグラフです。(グラフ2参照)
 大きな違いが表れているのは、日本人がぼけた状態や介護施設に入る状況で「死にたい」と思う人が多いのに対し、アメリカでは非常に少ない割合であるという点。アメリカでは家族から離れて老人ホームや介護施設に入るのは比較的当り前のことなのですが、日本ではまだまだ人のお世話になることに対する抵抗が大きいようです。逆に昏睡状態になったときにはアメリカの方のほうが「死にたい」と思う人が多いようです。このあたりは、医療制度の相違などの影響もあると思います。

--いろいろな考え方があるのですね。でも、「病は気から」という諺があるように、健康的な老後を迎えるには、気持ちの上で明るく元気に毎日を過ごすことが大切な気がします。

松村:おっしゃる通りです。 死ぬまで元気でいられるにはどうしたらいいかを、ブレスローという医師が3000人位の人で調査したデータがありまして…。私はUCLAに留学中、ブレスロー先生の講義を直接聞いたことがあります。このブレスロー先生の調査では、以下の7項目を守っている人が、後の追跡調査では、病気のあるなしに関わらず、自分は健康だと思えるし、とても元気だったという結果が出ています。この結果から、若いうちからこういう習慣を保っていきましょうとブレスロー先生が提案しているのが次の7項目です。 こうしてみてみるとそれほど難しい項目ではないですよね。

老いるというのは、いわば病気と向き合って生きること。病気があってこそ人間です。ですから、こんなふうに考えられないでしょうか。「病気がないから、健康なのではない。病気があっても、健康でいられることはできる。いくつになっても、自分のしたいことができれば、それが一番の健康なのだ。」と…。
 言ってみれば、わたしたちは生まれたときから余生なのです。
 一瞬が連なって一日となり、一年となり、一生となる。昨日と同じように過ごした今日であっても、昨日は昨日の一度きり、今日も今日の一度きり。明日は、今日とまたちょっと違うでしょう。だから、今日一日を精一杯、生きることが大事なのですね。


(取材日:2004年10月1日)


次回は《「かぜ・感冒・インフルエンザについて」》を予定しています。