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【コメント】
わたくし松村真司は、医師という仕事を「病気を治療するだけでなく、人々の健康を、そして健康的な暮らしや生き方をサポートする仕事。」そんなふうにとらえています。 日頃、私がどんな思いで患者さんと向き合っているかを知っていただきたいと思いました。
【過去のコラムは、こちら】
●第1回:「松村医院の医療方針
     (プライマリ・ケア)について」

◎第2回:「往診・訪問診療について」
●第3回:「予防接種について」
●第4回:「研修について」
●第5回:「コミュニケーションについて」
●第6回:「クオリティ・オブ・ライフ」
●第7回:「松村医院の建物改築について」
●第8回:「松村医院の建物改築について
      第2弾 新生・松村医院へ」
第2回「往診・訪問診療について」






--松村医院は、ここでの診療以外に、往診もしていただけるとお聞きしていますが…。

松村:どうしても患者さんが医院に来るのが大変だという状況で電話をいただいた場合、まずご相談の上、必要に応じてご自宅にお伺いして診療します。と言っても、医院の診療時間中は無理ですから、電話でだいたいの症状を聞いて判断し、適切な指示をお伝えした上で、診療時間が終わってから伺うことになります。もちろんケースバイケースですが、それまで待てなさそうな状況の場合は往診よりも救急車で病院へ行くほうがよいことも多いです。

 また、このような往診のほか、"訪問診療"として、定期的に在宅療養中の患者さんをそれぞれのご自宅で診ています。診療時間の空き時間、たとえば木曜日の午前中などは、ご高齢の方や末期がんで在宅療養中の方など10〜20名の患者さんを、決まった曜日の決まった時間に訪問しています。訪問診療の七つ道具(下記説明図参照)の入ったカバンを乗せて、上野毛界隈ですと自転車で回っています。脈を取り、熱や血圧を計り、健康状態をチェックする、介護されているご家族から日頃の状態を伺うといった内容で、訪問時間は一人およそ20分から30分くらい。時には、世間話や想い出話などを聞いているうちについつい長い時間過ごしてしまうこともあります。話を聞いてあげることで、患者さんの気分転換にもなりますし、ぼくもお話を聞くのが好きですからね。

(1)聴診器と血圧計:もっとも大事。呼吸音・心音など、これだけでいろんな診断ができるように日々精進しています。
(2) 処置用セット:ガーゼ・消毒用綿棒など、簡単な処置をするセットです。また応急用の注射薬などもここに入っています。
(3) 往診バッグ:二子玉川の無印良品で買いました。軽くてたくさんものが入るので重宝しています。
(4) ペンライト:目の瞳孔の反射を診たり、のどの奥を診たりします。時々患者さんのベッド下に落ちたものを探したりするのにも役にたちます。ということで病院の先生が普通使っているものよりも光が強力な少し大きめのマグライトを使っています。
(5) パルスオキシメータ・電子体温計:在宅で酸素吸入をしている人の血液中の酸素濃度を測る機械です。昔よりずっと小型で携帯が簡単になりました。
(6) 注射・採血セット:血液検査をするためのセットです。患者さんのお宅での採血は失敗ができないので緊張します。また、尿や便など、たいていの検査は往診でもできます。
(7) 血糖測定器と潜血反応キット:糖尿病の方などの血液中の糖の濃度などがその場でわかります。また、便や吐物の中に血液が混じっているかどうかをこれで判定します。
(8) 書類ケース:紹介状・診断書・カルテ用紙・処方箋などの書類がここに入っています。

このほか、必要に応じて緊急用の薬剤や、カテーテルという管や点滴など追加で持っていくこともあります。もちろん、カメラ付き携帯電話は必須です。(ときどき写真をとります。)検査の機械などはどんどん小型化しているので、おそらく数年後には今病院までいかなければできない検査の大多数は在宅でもできるようになると思っています。お気づきの人も多いと思いますが、それぞれを入れているプラスティック・ケースは上野毛の100円ショップ・ダイソーで買ったものです。


--在宅介護となると、ご家族のフルタイムの協力があってこそですね。

松村:もちろんご家族のケアも必要とされますが、自宅での介護というのは、介護スタッフや、訪問管理栄養士、訪問看護師、リハビリの作業療法士・理学療法士、さらには病院のソーシャル・ワーカーや専門医などの大勢の人々がかかわるチームワークになってくるんです。僕はそうした在宅介護をささえるケア・チームの一員として、在宅介護のサポートをさせていただいているというわけです。確かに、自ら身体を運んで診療するというのは手間と時間を要しますが、それでもわたしが訪問診療を重視しているのは、患者さんやご家族の想い…「住み慣れた環境で人生を過ごしたい、過ごさせてあげたい」という希望に応えたいという思いが強くあるからなんです。

 日ごろ慣れ親しんだ生活環境の中での療養というのは、特に精神面で大きくプラスに働きます。病院のベッドと比べ、勝手知ったる我が家ですから、リラックスできるし、制限もなく自由に好きなことができるし、第一に安心感が違う。僕としては、家族の協力のもと、可能であるなら、病院よりも自宅で療養する方が時にはプラスに働くことは多いと思っています。こうした生活環境や家庭に根差した形での医療のあり方というものは、プライマリ・ケアの基本でもあるんですよ。

--週に一度、必ず診てもらえる、あるいは何かあったら応じてもらえるお医者さんがいるということで、患者さん自身もご家族の方も心強いでしょうね。

松村:そうですね、在宅療養では患者さんやご家族の不安感をいかに取り除いてあげられるかが大事だと思うんです。決まった訪問日でなくても、何かあればすぐにかけつけますし、いつでも困ったらお電話くださいとお伝えしています。でも、「24時間、いつでも電話していいんですよ」と開放している姿勢をみせていると、かえって患者さんは電話して来ないものですね。それは要するに「いつでも診てもらえる、何かあればすぐ来てもらえる」という心の支えになっているからでしょう。常につながっているんだという安心感を与えられるだけでも、僕の役割として大成功なんだろうと思っています。もちろん、それなりに私のほうでも体制を整えなければなりませんがね。


--それに在宅療養ですと、もし旅立ちの時がきても、ご家族に囲まれてきっと安らかに最期を迎えることができるのでしょうね。

松村:今は病院のベッドで亡くなるというのが一般的ですから、自宅で最期を迎えることができるのは、ある意味でとても幸せなことなのかも知れません。実際のところ、病院の場合、死を迎える直前までも様々な医療介入がありますから、ご家族の方はいったん病室から出されたり、最期のお別れをちゃんとできないもどかしさ、さびしさってのがあるんですよ。ずっと一緒に生きてきた大切な家族との最期のふれあいが、なんだか事務的というか、あっけないというか…。これまで勤めてきた大学病院や急性期の病院でそんなシーンを何度も目の当たりにして、旅立つ患者さんは本当はどうしてほしかったんだろう?見送る家族にとって理想はどんな形なんだろう?と、いつもそんなふうに感じていました。この疑問はわたしが大学院や米国での勉強にもつながっていますし、今でも診療の原点になっています。

 
訪問診療を通して、すでに何人もの患者さんの最期を看取ってきましたが、日常生活の中でごく自然な形で息を引き取る患者さん、それまで精一杯の介護をしてきたご家族の皆さん、共にいい時間を過ごすことができたという満足感があるようです。
僕としても、皆様と人生の最後に交流をすることで、いろいろ人生の先輩から教えられることも多いですし、すこしでも希望をかなえてさしあげられたかな、という思いになります。
 また最近では、必要に応じて自宅にいながらいろんな医療機器を導入することもできますし、以前と比べて、在宅診療でも可能なことが多くなってきているんですよ。そういうサポート体制が整ってきたこともあって、生活環境の中で家族と協力しながら病気と向き合っていこうと考える患者さんが増えてきています。僕としてももっともっと多くの方々の望みに応えていきたいなと…。当医院では今後さらに、様々な医療に関する情報提供やサービスなども含めて、訪問診療の充実を図っていきたいと考えています。

--先生は患者さんとの信頼関係を深めるうえで、どのようなことに気をつけていますか?

松村:まずは患者さんの目を見ながらお話を聞くようにこころがけています。お話を聞くときは必ず患者さんのほうを向くようにしています。これは、すごく当り前のことですけど…。それから患者さんには日頃から「気になることがあったら、どんなささいなことでも気軽に話してくださいね」とお伝えしているんです。専門じゃないからこんなこと聞いちゃまずいかな…と躊躇されることもあるようなんですけど、何でもいいから疑問に感じたことや気になることは話していただくようにしています。ただ、自分がわからないことは、知ったかぶりをしないで率直にそうお伝えし、勉強してからお答えするようにしています。今は患者さんもいろいろ勉強なさっているので、負けないように勉強する毎日です。

 また訪問診療や往診のたびに、ざっくばらんに患者さんと世間話をして過ごすことが実は大事なんじゃないかと思っています。それが、胸襟を開いて、信頼をしてもらうことにつながっていきますから。第一、ご年配の方の話は含蓄があります。実に様々な人生経験をなさってますから、そういう方のお話を伺うと本当に勉強になるんです。特に上野毛や玉川地区の昔の話はとても面白いですね。いろんな人と知りあいになれて、いろんな話ができることは本当に楽しいですしね。



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