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【コメント】
わたくし松村真司は、医師という仕事を「病気を治療するだけでなく、人々の健康を、そして健康的な暮らしや生き方をサポートする仕事。」そんなふうにとらえています。 日頃、私がどんな思いで患者さんと向き合っているかを知っていただきたいと思いました。
【過去のコラムは、こちら】
●第1回:「松村医院の医療方針
     (プライマリ・ケア)について」

●第2回:「往診・訪問診療について」
●第3回:「予防接種について」
●第4回:「研修について」
●第5回:「コミュニケーションについて」
●第6回:「クオリティ・オブ・ライフ」
●第7回:「松村医院の建物改築について」
●第8回:「松村医院の建物改築について
      〜第2弾 新生・松村医院へ」

●第9回:「(松村医院小史)第一部
      松村医院誕生から現在まで」

●第10回:「(松村医院小史)第二部
      松村医院誕生から現在まで」

●第11回:「上野毛さんぽ」
●第12回:「院長・松村真司の著書のご案内」
      

第13回:「院長松村真司のおすすめ本《医学専門書編》」


今回は、私(当医院院長・松村真司)が長年勉強してまいりましたプライマリ・ケアや家庭医療・総合診療についての専門書の中から、プライマリ・ケア医を目指す医学生の皆さんに是非読んでいただきたいおすすめ本を専門書一般書合わせて10冊をご紹介させていただきます。まずは専門書6冊からです。




The Medical Interview
Clinical Care, Education, and Research
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Mack Lipkin (著), Samuel M. Putnam (著), Aaron Lazare (編集)
出版社: Springer; New.版 (1995/1/15)

この本は、ニューヨーク大学のマック・リプケン先生が書かれた本で、私が書いてきたコミュニケーションに関連する著述の基礎になっている本と言ってもいいかもしれません。お医者さん向けにどうメディカル・インタビュー(医療面接)をやったらいいのか、いわゆる患者さんとのコミュニケーションの技法を、特に医学生さんに対してどう教えるかという事柄につて、過去の研究結果や理論的背景を含め多面的に書いてある本です。この本の冒頭には「Medical Interview is the core clinical skill. 」、「メディカル・インタビュー(医療面接)は臨床技術の核だ」と書かれています。これまでにそのようにハッキリと書いてある本を知らなかったこともあり、すごく感銘した記憶があります。医師としての心のあり方とか、患者さんへの接し方として、患者さんの話をよく聞きましょうとか、患者さんに丁寧に接しましょうとは良く言われていたのですが、患者さんときちっとコミュニケーションをとるというのが、医療現場では最も重要な技術の一つである、ということは今でもなかなか理解がされにくいところです。患者さんとのコミュニケーションに関して、学生さんたちは、とかく、どんな対応をすれば一番いいのか、などの短絡的なハウツーを知りたがるのですが、方法論だけではなく、永遠に追求し続け、しっかり身につけていく技術であると説いています。今では絶版になっているので、入手しづらい非常に貴重な本となっています。

実は数年前にアメリカで学術集会があって私が参加した時に、卒業したUCLAの同級生達と現地で食事をしていたら、偶然にも隣のテーブルにリプケン先生が居らしたんです。その時に、この本を持って来ていれば、サインしてもらえたのにと心から悔やみました。でも先生に「この本にすごく感銘しました」と直接お話しができて、しかも握手もしっかりしてもらいました。嬉しかったです。(笑い)





A Textbook of Family Medicine
SECOND EDITION
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R. McWhinney (著)
出版社: Oxford Univ Pr; New版 (1981/02)

カナダのイアン・マクイーニーさんが書いた家庭医療に関するバイブル的な本です。家庭医を志している学生さんや研修医は是非読んでほしい一冊です。私は原著で読んだのですが、2013年には日本語版も出ましたので、読みやすくなっているんじゃないでしょうか。

この本には、プライマリ・ケア、家庭医療とはどういうものかがまとめられているので、家庭医として仕事をすることを目指している方であれば、一度は読んでおかなかればいけない本である と思います。プライマリ・ケアとは、きっちり型にはまったマシーンのような、いわゆる画一的な対応をしていくことではなく、その地域で求められている問題ごとに柔軟に対応するためのプログラムみたいなものだと思っています。いろいろな専門のお医者さんにプライマリ・ケアのプログラムをインストールすれば、それなりに動くのですが、純粋にプライマリ・ケアを目指している医師こそ、そのプログラムをインストールすれば、よりスムーズに動くのではないかと思います。本書にはそのようなプログラムの根幹になる、家庭医療に関する理論が書かれています。学生さんによく「患者さんのことを100%理解できるスーパーマンみたいな医者はいないんだ」と言っても、なかなかそのことを理解してもらえないのですが、それと同じように完成形がない、100%正解の答えが得られないのがプライマリ・ケアなのかもしれません。





Primary Care: Balancing Health Needs, Services, and Technology
Barbara Starfield
出版社: Oxford University Press Inc (1998/10/15)

この本の著者バーバラ・スターフィールドさんは残念ながら2011年に亡くなられましたが、プライマリ・ケアに関する概念的なことや政策的なことなど全般にわたり、どんなことが問題となっており、どのように解決されてきたのか、これまで蓄積された研究結果がまとまっているものです。本書は残念ながらこれまで日本語版は出ていなかったと思います。

第1版はすでに持っていたのですが、ちょうど私が留学中に第2版が出ました。自分一人で読むのには時間と忍耐力が必要だったので、3人の仲間のお医者さんたちと分担して一緒に抄読会といって順々に読んで、読んだ内容のサマリーを共有する方法でどうにか読み終えました。この方法はナマケモノの私にはとても良かったです。これを一回読むとプライマリ・ケアに関する学問的な基礎力がつく本です。是非医学生の皆さんにも読んで頂きたいと思います。





Quality in Family Practice Book of Tools
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出版社: Titles on Demand; New.版 (2012/1/10)

これは、カナダのマクマスター大学の人たちが作った家庭医療の診療所の質をどう維持・向上させていくか、そのためのマニュアル本です。例えば、安全管理の項目を見ると、ワクチンなどの保冷が必要な薬品をどのように冷たいまま維持したらよいかとか、カルテや備品の管理をどうすべきか、患者のプライバシーはどう保護するか、などいろいろな項目がずらっと書いてある本です。 診療所の質を維持していくためにはどういう項目について主に注意していったらいいかが書かれています。

ヨーロッパの国々には公営の診療所が多いのですが、そのような診療所の質のばらつきを管理するための、チェックリストみたいなものがあって、それを実践することによって診療所の質を一定に保つことができるようになっています。日本もいずれそのような物ができてくると思います。ただし、カナダと日本では医療制度や生活習慣などが違うため、これをそのまま日本にもってきても当てはまらない部分も多く、だいぶ改変が必要になります。

現在私はこの本の日本語版の制作に携わっています。遅くとも2015年中には出せるのではと思います。





村で病気とたたかう
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若月俊一(著)
出版社: 岩波書店

専門書ということで英語の本ばかりになってしまったので、最後は、専門書ではありませんが、日本語で書かれた若月俊一さんの、今や古典的になっている本書をお勧めします。この本の著者の若月俊一さんは、日本の農村医学・地域医療のカリスマと呼ばれている人で、長年長野県にある佐久総合病院で院長を務められた方です。この本はいまから約45年前の1971年に書かれたものですが、私は医学生の時に一度読みました。その時は、ただ「ふ〜ん、こんなものか」と読んだのですが、あらためて数年前に再読したときに、その革新性に改めて驚きました。病院でじっと患者さんを待っているのではなくて、地域に入って行って地域の患者さんとか住民の人に積極的に健康を考えていただいくという思想、発想で、現代にも通じる先進的な医療を当時から展開してきた先駆的な人なのです。

若月俊一の遺言
農村医療の原点
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若月俊一(著)
出版社: 家の光協会 (2007/06)

若月さんの著書からもう一冊。こちらは、亡くなられてから出た本です。いろんなところで発行されていた文章のオムニバス版ですが、この本には非常に良いことがいっぱい書いてあります。たとえば、テレビもない時代にどのように人々に健康とか病気のことをわかってもらえるか考えて、ミュージカル仕立ての大衆演劇をやることによって、予防活動をやった、ということが書いてあります。学術的な講演会をやっても普通に人には全く響かないので、お医者さんや看護師さんが現地に行って大衆演劇をやる、という活動をされたそうです。同じ若月さんの本なので、前の本だけを選ぼうと思ったのですが、こちらはだいぶ古い本なので二冊目としてすこし新しめのこの本をあげておきました。とはいえ、こちらも大分昔、まだ私が研修医のころに読んだものだと思います。

今回もう一度読み直して気づいたのですが、かつて読んだときにつけた付箋があちこちに付いておりました。その中で、若いお医者さんへ向けて若月先生が「結局患者さんはいろいろな住民がいる。集団として住民を診るのではなく、一人一人をまず診ていくことが重要。その一人一人の患者さんから共通する全体的、人間的な何かを掴み取って、それを積み重ねていくことが若いお医者さんにとっては必要であり、このことは苦労してでも 得なくちゃいけないことだ」と言っている部分に付箋がついていました。当時の自分は、この部分が大事だと思ったんでしょうね。今の若い先生は、「こういうときは結局どうすればいいんですか?」など、とにかく最初に共通の答えを得たがるんです。「それは時と場合によっていろいろですよ」と言ってもなかなかわかってもらえなくて。
ここに選んだ本は学問的にはバラバラに見えるかもしれませんが、本質的には重なるような気がします。目の前の本当の患者さんを診療して、うまくいくことばかりでありません。また、同じように見えても、一人として同じ人はいないのです。とかく、こういう本で勉強したことをすぐに現場に当てはめたくなってしまうのですが、そうではなくて、学生さんや研修医の先生には逆の発想、こういう本で学んだことを持ってひとつひとつの経験をし、その経験を通じて考えながら、次の行動につなげていってもらいたいなと思っています。
以上、プライマリ・ケア医を目指す学生さんや地域 医療についてもう少し深く知りたい、と考えている若いお医者さんにおすすめの6冊です。

専門書ばかりで少し硬くなったので次回は一般書でのおすすめ本(4冊)をご紹介したいと思います。ご期待ください。

おすすめ本後半は、私(当医院院長・松村真司)が長年勉強してまいりましたプライマリ・ケアや家庭医療・総合診療についての一般書の中から、プライマリ・ケア医を目指す医学生の皆さんに是非読んでいただきたいおすすめ本を10冊の中から、一般書4冊をご紹介させていただきます。